
健康手帳について
日本で管理されている馬には、一頭一頭「健康手帳」というものが発行されています。
これは各都道府県家畜保健衛生所から発行されるもので、
予防接種や検査履歴、移動履歴といった防疫上の情報や
前回の記事にあったような、マイクロチップや毛色などの特徴といった、個体識別に関する情報が記載されています。
これは馬が移動する際にも一緒に運ばれ、移動先で保管されます。
普段の診療でよくチェックするのは、個体識別のページと、予防接種歴のページです。
これはライジングにいる、ドマーニ号の健康手帳。

一ページ目には個体識別表が貼り付けられています。

本来であればマイクロチップナンバーが記載されており、特に保険診療や去勢手術などの際に、診療対象の馬であることを確認するのですが、
マイクロチップが制度化される前に競走馬だったドマーニには、それがありません。
ドマーニは去勢されているため、性別が牡→騸に書き換えてあります。
その際にはこのような去勢証明書も添付されます。

ただし、片側だけでも睾丸が残っている場合、性別は「牡」のままだそうです。
こちらは伝染性貧血の検査についてのページです。

以前は5年ごとに、家畜保健衛生所が検査を行っていましたが、清浄化により平成30年度以降は廃止されました。
そのため基本的には、こちらのページはあまり開きません(ただし、自主検査を行うことはあります)。
こちらは予防接種歴を記載するページです。

予防接種した際には、必ず日付や種類、ロットナンバー、獣医師名などを記載します。
例え予防接種をしていても、ここに記載が無いと認められず、トレセンなどへの移動ができなくなることがあるため注意しています。
こちらは、重要事項を記載するページです。
手術歴や、薬物投与に対するショック症状が出た、というような事柄があれば記載します。

普段の治療でショック症状に特に注意する薬品は、ペニシリンです。
投与直後に不穏な動きを見せたり、呼吸が荒くなったりする場合にはショック症状が疑われます。
そういった情報が共有されていないと、移動先で再度ショック症状を現したりすることもあるため、これも重要な事柄です。
こちらは移動歴を記載するページです。

牧場→牧場や、牧場→トレセンへの移動歴が記載されていますが、競馬場への移動や、乗馬の馬術競技会への往復の移動については記載しなくてもいいようです。
ただし、たまにですが、一切記載がされておらず、この馬はどこから来たんだろう…と途方に暮れることもあります。
このように、馬の管理において欠かせない情報が、この手帳には記載されています。
事故や馬の取り違えなどを防ぐためにも、牧場・獣医師にとって大切なものなのです。

事務作業のお供。
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