腱について2〜腱炎〜

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こんにちは。

北海道は寒いですが、プラス気温の暖かい日もあり、

道が凍って大変なときもあります。

 

今回は腱炎について。

 

腱炎とは腱または筋腱接合部で発生する炎症のことを示します。

 

臨床的に感知できる腱炎の病理学的状態は、

他の組織と同様に急性炎症期、亜急性修復期、慢性再構築期の3期に分けられます。

 

ただし、最終的に瘢痕組織(傷あと)を形成して、正常な機能は回復しません。

つまり、元には戻らないのです。

 

腱炎を発症した腱の肉眼像(A~C、Dの左側)。

赤色の変色部・出血部(矢印)と白色の瘢痕組織(矢頭)がみられます。

エコーのBモードでは、出血部は黒く、瘢痕組織部は真っ白に映ります。

Bでは瘢痕組織によって、腱の形が変わっています。

Dでは、腱炎発症腱が、正常な腱より太くなっているのがわかります。

 

 

急性炎症期は、臨床的な損傷の兆候とともに始まり、通常1~2週間です。

この時期は、腱内の出血、血液供給の増加、浮腫を伴う実質的な炎症と

最初に好中球、続いてマクロファージや単球といった白血球の浸潤があります。

 

 

亜急性修復期は、急性期と重なって損傷の数日以内に始まり、約3週間後にピークを迎えます。

この時期は、強度の血管新生反応と損傷組織内の腱細胞、内周膜および腱傍組織の細胞、

血管由来の単球などから由来する線維芽細胞が蓄積します。

これらの細胞は、無秩序に配列したⅢ型コラーゲン主体の瘢痕組織を合成します。

形成された瘢痕組織は、最初のうちは腱組織より弱く、

そのため、治癒した腱は、損傷部位での再損傷が起こりやすくなります。

この様な再損傷は、最初の2期を繰り返し、傷害された腱の量と損傷の重傷度が増加します。

 

 

慢性再構築期は損傷後数カ月に始まり、瘢痕組織は数カ月にわたってゆっくりと再構築されます。

この再構築過程で、Ⅲ型コラーゲンから、正常腱の主要構成物質であるⅠ型コラーゲンへ転換します。

しかし、この転換にもかかわらず、瘢痕組織は正常腱組織になることは決してありません。

 

電子顕微鏡で見た腱炎発症腱のコラーゲン細線維。

線維走行は不規則で(上の図)、

輪郭が不整なコラーゲン細線維がみられます(下の図の矢印)。

 

 

 

腱炎の発症機序はいまだ詳細にされていませんが、

腱炎を発症する前に、肉眼的に紫色やピンク色の変色部として観察され

細胞外マトリックスの構成分子や構造が変化した「退行性変化」が先行して起こり、

この臨床的に無症状の「退行性変化」から臨床的な腱炎が生じると考えられています。

 

 

 

 

私の骨折部も慢性再構築期に入っております。

骨折線はまだ見えますが、骨瘤のようにボッコリ出っ張っていた部分が吸収され、

だいぶ滑らかになってきましたよ!(矢印)

 

U

 

寝違えた?

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新年あけましておめでとうございます。
 
今年もよろしくお願いいたします。
 
 
 
 
年末年始ももちろん、競走馬の牧場は稼働しています。
 
1月1日くらいは騎乗はせずに世話だけ、というところもありますが、関係なくバリバリ騎乗している牧場もあります。
 
地方競馬場では正月競馬も連日開催されており、むしろ忙しい時期かもしれません。
 
 
この寒い時期でも、朝の暗いうちから働いている牧場スタッフには、頭の下がる思いです。
 
 
 

 
 
 
「なんでか分からないけど跛行している」という相談を、たまに受けます。
 
今回診たのもそんな馬でした。確かに馬房から出してもらうと、常歩でも跛行しているのが分かります。
 
 
しかしその担当者の言う通り、見たところ傷や腫れている箇所も見当たりません。
 
ざっと触ってみても熱感などもなし。でもはっきりと、右前肢が跛行しています。
 
 
 
ならば関節をチェックしてみます。
 
 
上から順に、肩関節、次いで肘関節。
 
 
と、肘関節を曲げた時に馬が嫌がり、前肢を下ろしました。
 
 
それでは、と左前肢で同様に肘関節を曲げると、それほど嫌がりません。なので痛みが、右の肘関節周辺にあることが分かります。
 
そこで前肢を上げて、前肢の内側の付け根、脇の辺りを触診してみます。
 
 
傷などはありませんが、浅胸筋〜横行胸筋のあたりでしょうか、押すと鋭く馬が反応し、飛び上がる箇所がありました。
 
他に痛みのある箇所も無いことから、そこが跛行の原因だろうと判断し、消炎剤を投与しました。
 
 
 
この馬の跛行は、前日の朝、乗る前からあったとのこと。その前の日は普通だったことから、夜の間に痛めた可能性があります。
 
 
 
 
こういう場合、疑われるのが「寝違え」です。
 
人間もよく、「寝違えて首を痛めた」などということがありますが、馬の場合は少し勝手が違います。
 
 
馬で寝違えというのは、馬房で寝返りを打った際に、身体と壁の間で脚がつっかえたり
 
馬房の隅に身体が挟まって、身動きが取れなくなることを言います。
 
 

 
馬が横になったときに、画像の赤丸の部分に脚や身体がはまり込んでいるような状態です。
 
 
 
最初に聞いたときには、なんて間抜けな動物なんだと思ったものですが、どうにか身体を起こそうとした馬が暴れて大きな怪我をしたり
 
長時間不自然な体勢で固定されることにより、血流が阻害され、命の危険に晒されることもあるため、意外と馬鹿にはできない状態です。
 
 
 
牧場で寝違えが発生した場合、急いで馬をおこさなくてはなりません。
 
そのためすぐに人手を集めます。そしてみんなで馬の身体を押したり、ロープを脚にかけて引っ張って、馬を馬房の中央に戻します。
 
その際にも暴れる馬に蹴られたりすることのないよう、注意が必要です。
 
 
 
今回診た馬も、担当者も「そういえば朝来たときに、馬着がずれていた」と言っており、寝違えや、夜の間にどこかに引っ掛けた・暴れて変に脚を開いた、
 
などのアクシデントがあった可能性があります。
 
 
二日目に診たときには、跛行はまだ少し見られましたが、前日よりは改善していました。そのため再度消炎剤を投与。
 
その次の日に馬が移動予定のため、これ以上の継続治療はできませんでしたが、移動先に申し送りをしてもらいました。
 
 
 
 
以前、馬房で怪我をした別の馬を診たとき、「朝来たら、吊るしてあった水桶が、天井近くにまで持ち上がっていた」と言われたこともあります。
 
夜の間に何があったのか?はっきりとは分かりませんでしたが、怪我をしていたことは事実。
 
 
安全と思われる馬房であっても、怪我の可能性は無いわけではないのです。
 
 
 
 
 
 
 

 
新年の快哉を叫ぶメッシ。
 
 
 
 
 
N
 

乳房炎

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跛行したので診てほしい、と連絡があり、往診に向かいました。
 
 
3歳の牝馬。前日から跛行し、夜には体温39度(平熱は37度後半~38度前半くらい)だったとのこと。
 
往診時は平熱でしたが、馬房から出たがらず、痛そうに恐る恐る歩きます。両後肢に問題があるような様子。
 
 
しかし触診してみても、関節や腱に問題なし。少し大腿部の筋肉が張っているようですが、そこまでひどい跛行を呈するとは思えません。
 
 
横紋筋融解症??とも疑ったのですが、
 
 
 

 

 
 
乳房炎でした。
 
 
右の乳房が腫れています。乳房の頭側の大きな腫れの方は、炎症により生じた浮腫です。
 
 
触れると熱感があり、嫌がりました。
 
 
 
 
 
若い現役競走馬で乳房炎?!と驚いたのですが、まれにあるようです。
 
 
原因は、細菌の侵入。連鎖球菌やブドウ球菌などの感染によって起こるそうです。
 
 
 
獣医学生さんなら、牛の乳房炎の重要性は、授業で教わっているかと思います。酪農家にとっては頭を悩ませる問題の一つです。
 
 
搾乳の手順や、その際に気をつけることなど、国試のために必死で勉強したことを覚えています。
 
 
しかし乳腺も発達しておらず、乳頭口の大して開いていない現役競走馬で乳房炎というのは、初めてみた症例です。
 
 
 
細菌感染が原因なので、治療は抗生物質と、消炎剤の投与。
 
 
 
 
次の日。
 

 

 
 
腫れはありますが小さくなりました。また、浮腫は重力に従い、腹の下に降りてきています。
 
触るとまだ痛がりますが、昨日よりは歩きやすくなっています。
 
 
再度抗生剤を投与。
 
 
 
 
二日後。
 

 
 
腫れはかなり小さくなりました。触ると、少しですが痛がります。
 
浮腫はこの画像からは見えませんが、小さくなり、更に降りてきていました。
 
歩様も通常に比べると少し気になるそうですが、血行を良くし腫れを引かせるために、軽い運動を行いました。
 
 
 
ここで治療は終了。その後は特に問題無いようです。
 
 
 
 
跛行が見られた時には、肢だけでなく全体を見なければならないのだと、勉強になった症例でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
・・・?!
 
(生きてます)
 
 
 
 
 
N

横紋筋融解症

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横紋筋融解症という病気があります。
 
 
スクミ、タイイングアップ(Tying-up)、月曜病、などと呼ばれることもあります。
 
 
 
症状としては、硬直した歩様、発汗、呼吸数の増加、脱水、筋肉の硬化性腫脹、熱感、排尿姿勢などがみられます。
 
 
通常は臀部、大腿二頭筋、半腱半膜用筋に発症することが多いようです。
 
 
 
過剰な運動や、体の未熟な馬に対する激しい運動、輸送によるストレスにより引き起こされます。
 
麻酔時や放牧時、休養明けの運動後(=月曜病と呼ばれる所以!)にみられることもあるようです。
 
 
また、過剰な濃厚飼料の供給や、電解質の不足も原因の一つとなります。
 
 
 
メカニズムははっきりと分かっていません。
 
代謝により発生した乳酸が原因と言われることもありますが、実際に発症した馬では、乳酸性アシドーシスはあまり見られず、軽度である場合が多いとされています。
 
 
一説には、ミトコンドリアの代謝などにより産生された活性酸素が筋線維を傷害することにより発症するとも言われています。
 
そうすることで細胞外よりカルシウムが細胞内に流入し、過度のカルシウムが局所的に筋繊維の過収縮を生じさせ、物理的に破綻させてしまうそうです。
 
 
広範囲に筋壊死が生じた場合には、ミオグロビンなどが筋細胞内から流出し、全身に影響を及ぼします。
 
ミオグロビンが尿細管内に沈着することで、腎尿細管傷害を生じさせ、腎不全、ひいてはDICや多臓器不全などの重篤な全身症状を起こすこともあるのです。
 
 
 
 
 
横紋筋融解症が疑われる場合、血液検査をして、筋酵素の上昇を確認します。
 
 
 
実際の検査結果がこちらです。
 

 
このうち筋酵素と呼ばれるのは、CK、GOT、LDHです。
 
正常値は、CK:80~900、GOT:200~1200、LDH:350~1200。
 
よって、CK、GOTが上昇していることが分かります。
 
 
 
 
治療としては、まずは全身状態を把握します。脱水の程度、体温、腸蠕動、食思の有無を確認し、運動の程度も確認します。
 
 
重篤な場合、横臥し腸蠕動・食思の廃絶がみられることもあります。これは疝痛の症状と類似しているため、誤診しないよう注意が必要です。
 
血液検査を行うのは、そういった意味もあります。
 
 
そして脱水を改善し腎不全を防ぐために、輸液を行います。
 
 
鎮痛剤としては、おもにNSAIDsを用いますが、起立不能など重篤な場合は、ステロイドを投与することもあります。
(ただし、NSAIDsの副作用には腎不全があるため、注意が必要です…)
 
 
 
その後、急性の場合には無理せず休息させます。ただし馬房にずっと入れておくのも良くないため、小パドックで放牧したり、短時間の曳き馬を行ったりします。
 
 
その後は様子を見ながら、運動を徐々に戻していきます。
 
 
 
慢性の場合にも、完全に休養させるのではなく、曳き馬などから徐々に運動を始めていきます。
 
 
また、ビタミンEやセレンの含まれた薬品を投与し、筋肉の修復を促す場合もあります。
 
 
 
 
上記の血液検査した馬は、まだ未出走の2歳。
 
ごく軽い駈歩程度の運動でしたが、騎乗後30分程度で硬直した歩様をみせました。
 
 
おそらく、正しいフォームで走らせたところ、まだ発達していない筋肉を急激に使うこととなり、発症したのではないか?と考えられます。
 
そのため輸液し、NSAIDsを投与したところ、次の日には回復しました(その後すぐに移動したため、経過は追えませんでしたが、聞く限り順調に運動を進めているとのこと)。
 
 
 
競走馬デビューするまでには、いろいろな不調と戦わなければならないこともあるのです…
 
 
 
 
 
 
 
 
かわいそうな捨て猫を演出するメッシ。
 

 
 
 
 
 
 
N
 
 

夏負け

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暑い時期によく聞くのが、「夏負け」という言葉。
 
 
これは簡単に言えば、夏場の高い気温による馬の体調不良です。
 
 
症状としては
 
・目や鼻の周りの毛が薄くなり、黒ずんで見える
 

(この馬は、そこまで重度ではありません)
 
・体温が高い
 
・運動後しばらく経っても呼吸が荒い
 
・異常に発汗している、もしくは全く発汗がみられない
 
・牡馬では睾丸が腫脹し、垂れ下がっている
 
・食欲が落ちる
 
 
といったものが見られます。
 
 
 
同じ厩舎で生活して、同じような運動をしていても、全くこれらの症状が出ず元気なものもいれば、少しの運動でも息が荒くなり、その状態が何日も続く馬もいます。
 
 
また、牡馬よりも牝馬の方が暑さに強い、と言われているようです。
 
 
あとは、北海道から来たばかりの2歳馬は、暑さに慣れていないためでしょうか、梅雨明け頃から夏負けの症状を見せるものが増えてくるように思います。
 
 
 
 
治療としては輸液による脱水の改善、栄養剤の投与などがありますが、それだけで完治するようなものでもないため、
 
治療でコンディションを整え、様子を見ながら運動させ、暑さに適応してくれるのを待つ…という感じです。
 
 
 
 
 
JRAのトレーニングセンターでは、厩舎にエアコンが設置されているようですが、外の牧場ではまだまだ難しいのだと思います。
 
 
 
 
そのため牧場では、馬のためにいろいろな暑さ対策をしています。
 
 
 
運動後は馬体に水をかけて冷やしたり、
 
 
こういったミストシャワーを取り付けたり、
 

 
 
ミスト付きの扇風機をつけたり、
 

 
 
厩舎の屋根に散水用のホースを取り付け、上から冷やしたり、など。
 

 

(見えにくいですが、水滴が屋根から落ちてきています)
 
 
あとは、発汗によって失われた分を補うために、飼料に電解質を多めに加えるといったことも。
 

 
 
 
 
 
もう9月。早く涼しくなってくれればいいのですが、残暑はまだまだ厳しいようです。
 
 
 
 
 
 

 
いっちょまえに、馬房に2台も扇風機をつけてもらったメイちゃん。
 
 
 
 
 
N
 
 

獣医になってはじめての見学

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今週は、当院が関わっている馬が喉頭蓋背方変位(DDSP: Dorsal Displacement of the Soft Palate)の

手術を行うということで、NOSAIみなみの家畜高度医療センターへ見学に行きました。

 

 

 

 

DDSPについて簡単に説明すると、喉頭蓋が軟口蓋の腹側に変位するものです。

 

 

この状態になると正常な呼吸を妨げ、呼気時に「ゴロゴロ」や「ブルブル」のようなノド鳴りが起こります。

 

健常な馬でも首を頭側に伸ばした際にDDSPが誘発されることは頻繁にあります。

 

ですが、運動時や首を曲げた状態でも頻発している場合には、運動不耐性や呼吸困難を生じる喘鳴症の原因となります。

 

DDSPが正常な運動を妨げるのであれば舌縛りなどの対策、さらには重度であれば手術を考慮する必要があります。

 

 

そして、今回の手術内容は、喉頭タイフォワード手術(Laryngeal Tie-Forward Procedure)と喉頭ヒダ切除術でした。

 

喉頭タイフォワード手術は、喉頭蓋が腹側へ落ちるのを防ぐ目的で行われます。

 

甲状軟骨と舌骨底骨に縫合糸を架け、喉頭蓋を頭背側へ押し出すような力作用を加わえるものです。

 

(AUER&STICK EQUINE SURGERY FOURTH EDITION.  P.584, FIGURE 44-24)

 

 

 

 

当院は一次診療施設なので、普段は手術を見る・実施することはありません。

 

今回の見学では、センターの先生方との多面的な会話によって知見を広げることができました。

 

 

私は学生時代、学外実習をするときに必ず守ってきたことは「問題解決のための質問をする」ということです。

 

獣医療に関するただの質問のほとんどは教科書に書いてあるので、聞く側も答える側も退屈でしかありません。

 

ですが、疑問に思ったことに対し、まずは思考して自分の中で仮の結論を出してから質問をする。

 

そうすることで会話が広がり、ちょっとしたディスカッションになります。

 

この学生時代からのクセは社会人になっても役に立つことを今回実感しました。

 

 

 

 

学生の皆様にもこのマインドセットを持つことをおすすめします。

 

 

獣医師は生涯勉強じゃき!

 

 

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